今回の問題ある法改正の問題について、今まで東京新聞くらいしか取り上げてきませんでした。ようやく、大手紙もこの問題を取り上げました。今日の毎日新聞朝刊記事です。
くらしの明日:私の社会保障論 精神保健福祉法改正案による要件緩和=大熊由紀子
毎日新聞 2013年06月05日 東京朝刊
◇危うい認知症「強制入院」−−国際医療福祉大大学院教授・大熊由紀子
あなたが認知症になった時、「おいめいまでを含む親族の誰か」が承諾すれば、たやすく精神科病院に入れられてしまう。そんな危うい法案が参院厚生労働委員会を通過し、衆院で成立しようとしています。精神保健福祉法改正案です。
ことの重大さが明らかになったきっかけは、田村憲久厚生労働相あてに出された前代未聞の意見書でした。精神保健福祉の新たな体制について議論した厚労省検討会の座長、町野朔・上智大法学部研究科教授を筆頭に、11人の検討会メンバーが意見書に名を連ねていました。
「精神保健福祉法改正案は、議論を尽くした上で検討会で了解されたものと全く異なっている」「最終報告書の原点に立ち戻り、法案の内容を再検討していただくことを強く要望する」
30日の参院厚生労働委員会で、参考人の池原毅和弁護士は「認知症高齢者の強制入院には、相続・財産問題が関係していることが珍しくない」として、入院の要件を緩める法案が入院を促進する危険性を指摘しました。また、強制入院の判断には2人の専門職(うち1人は独立した第三者)があたるべきだとした国連の原則に触れ、法案は「国連の自由権の条約に反している」とも主張。拙速な改正を避けるよう求めました。
日本の精神科病院の病床数が、国際水準に比べ桁はずれに多く、本人の意思に反した強制入院の割合が40%を占めることは、国連の拷問等禁止条約委員会で「強制入院乱発国家」として問題とされたばかりです。
厚労省の検討会「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム・第3ラウンド」は、日本独特のハードルの低い強制入院制度を改めたいという思いを共有する構成員が、昨年6月末に答申をまとめました。ところが、昨年末に政権が代わるや、答申内容とは逆行した法案が提出されました。
参院厚生労働委員会の質疑では、川田龍平議員が「法案は精神科病院の経営安定のためのものではないか。日本精神科病院協会の政治団体から首相や大臣に数百万円の献金がある。患者の立場を考えない癒着があると疑われても仕方がない」と質問すると、田村厚労相は明確に反論できませんでした。
川田議員が質問の根拠とした日本精神科病院協会の政治連盟の献金の実態は、総務省のホームページで公開されています。同協会の山崎学会長は機関誌に、協会の理解者が「政府・自民党の要職に就任」「頼もしい限り」との文を寄せています。
認知症や精神障害の人には判断力がない、と言わんばかりの、世界に例のない法制定は、思いとどまるべきだと考えます。
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■ことば
◇医療保護入院
本人ではなく、保護者の同意による精神科への入院をさす。現行法では後見人・保佐人、配偶者や親権者のうち1人が保護者となるか、それ以外の家族が保護者となる場合は裁判所で選任の手続きが必要。改正案では保護者制度をなくし、家族等のいずれかの同意があれば入院できるように変更している。
(以上引用終わり)
もっとも、文中に出てくる検討会の答申自体にも私は懐疑的です。家族の同意をなくし、精神保健指定医たった一人で強制入院を決定するという答申案が、強制入院のハードルを下げるとはとても思えません。精神科医の権限を強化し、さらにはアウトリーチ→強制入院という新たな脅威をいたずらに増やすだけなので、正直厚生労働省案の方がまだましです。
いずれの案も、精神保健指定医の判定は常に正しいという、誤った前提を基に立てられたものなので、そもそもどちらが良いかという次元の話ではありません。
法案を作成したり賛成したりする人々は、自分が強制入院される側にならない限り、その問題点に気付かないのでしょう。あれだけの原発事故があっても変わらない国ですから、まだまだこれくらいの包囲網では変わりません。どんどん包囲網を強化していきましょう。