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都立病院顧問、製薬会社の謝礼700万を申告せず
2016年3月10日08時14分
東京都立小児総合医療センター顧問の男性医師が2013~14年度、製薬会社2社から講演や原稿執筆の謝礼などとして計約700万円を受け取ったが、国の指針に基づく規定に反してセンターに申告していなかった。9日、都が明らかにした。
顧問は、日本発達障害ネットワークの理事長などを務める市川宏伸氏。2社は注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療薬を販売する日本イーライリリー(神戸市)とヤンセンファーマ(東京都)。都は事務的ミスによる申告漏れで問題はなかったと判断したが、新年度には顧問職を解く方針だ。
厚生労働省は補助金を使う研究者が同じ企業や団体から得る収入が年度内に100万円を超える場合、所属先に申告することを義務づけている。市川氏は厚労省の補助金を得て、児童の精神疾患などの研究をしていた。都の調査に対して「失念していた」と説明したという。都は製薬会社への利益誘導はなかったが、手続き違反があったと判断した。
日本で最も著名な児童精神科医である市川宏伸氏に、COI(利益相反)の申告義務違反が発覚しました。同氏については、発達障害をめぐる医学会のトップ(日本ADHD学会理事長、日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会監事)でありながら、当事者団体のトップ(日本発達障害ネットワーク理事長)も務め、国の発達障害者支援施策に最も影響力のある人物です。
このような権威である医師が、製薬会社から講演や監修等を依頼され、正当な報酬を受け取ること自体法的に問題があるわけではありません。しかし、そのような利害関係者から金銭を受け取る構図が研究成果を歪め、特定の企業への利益誘導になる懸念から、透明性を図る利益相反の管理がここ数年国や学術団体、研究機関、医療機関等で徹底されてきた背景があります。
問題は、誰も市川氏の利益相反の構図を理解せず、管理に責任も取っていなかったことです。現在超党派の「発達障害の支援を考える議員連盟」を中心に、発達障害者支援改正作業が進められていますが、そこでの市川氏の影響力は絶大でありながら、誰も利益相反の構図を知りませんでした。実際、現在現場で起きているような発達障害をめぐる過剰診断や過剰投薬の実態について、そして国連で勧告されている利益相反の問題について、一度も検討されていないのです。
発達障害をめぐる薬物療法、特にADHDに対する投薬について、製薬会社と利害関係にある権威ある精神科医が製薬会社の過剰なマーケティングに加担し、不必要な患者を作り出していることが世界的に問題となっています。それを象徴するのが米国で2008年に発覚したビーダーマン博士騒動です。
市川氏は、ビーダーマン博士と同様、ADHD治療薬を製造販売する製薬会社から巨額の金銭を受け取り、密接に薬の普及啓発活動を推進しながら、受け取った金銭について申告していませんでした。
ビーダーマン博士騒動はあくまで象徴に過ぎません。ADD/ADHDの診断基準を作成した責任者(アレン・フランセス博士)は、米国で注意欠陥障害(ADD)が3倍に増加したことについて、「注意欠陥障害は過小評価されていると小児科医、小児精神科医、保護者、教師たちに思い込ませた製薬会社の力と、それまでは正常と考えられていた多くの子どもが注意欠陥障害と診断されたことによるものです」と指摘。「米国では、一般的な個性であって病気と見なすべきではない子どもたちが、やたらに過剰診断され、過剰な薬物治療を受けているのです」と警鐘を強く鳴らしています。
日本でも状況は変わりません。発達障害者支援法が施行された2005年以降、異常に発達障害の診断が増加し、安易に投薬が開始される現象は「発達障害バブル」などと言われ、心ある小児科医や児童精神科医から疑問の声が出ています。
国連児童の権利委員会は、2010年に日本に対して「この現象が主に薬物によって治療されるべき生理的障害とみなされ,社会的決定要因が適切に考慮されていないことを懸念する」「ADHDの診断数の推移を監視するとともに,この分野における研究が製薬産業とは独立した形で実施されることを確保するよう勧告する」と勧告しています。ところが、市川氏が理事長を務める日本ADHD学会は、毎年多額の寄附金、共催費を受け取って学会運営をしています。
市川氏の利益相反が適正に申告されなかったことは、決して些細な問題ではありません。少なくとも、市川氏の利益相反の構図が理解された上で法改正作業が進められていたわけではありません。支援が広がること自体は歓迎すべきことですが、その善意が歪められ、欧米諸国の前輪の轍を踏む形で、子どもたちの命と健康、将来と引き換えに、特定の専門家や企業への利益誘導になるようなことがあってはならなりません。この問題を契機に、発達障害者支援の在り方を見直すべきでしょう。
市川宏伸氏とビーターマン博士との共通/類似点
※ビーダーマン博士は、2008年に利益相反の申告漏れが発覚して以来、次々と製薬会社との深刻な癒着構造も暴かれ、子どもの命や健康と引き換えに研究を捻じ曲げてきた事実明らかになり、一大スキャンダルとなった著名な児童精神科医である
市川宏伸氏 東京都立小児総合医療センター顧問 | ジョセフ・ビーダーマン博士 ハーバード大学精神医学教授 |
日本で最も著名な児童精神科医 | 世界で最も著名な児童精神科医 |
ADHD薬物治療の権威 | ADHD薬物治療の権威 |
2014年に日本イーライリリー(ストラテラの製造・販元)から約200万円、ヤンセンファーマ(コンサータの製造・販売元)から約156万円を受け取りながら適正に報告されていなかった。 | 2000~2004年でイーライリリーから62,477ドル、ジョンソン&ジョンソン(ヤンセンファーマの親会社)から58,169ドル受け取っていたが、適正に報告されていなかった。 |
上記の申告漏れは、「厚生労働科学研究における利益相反の管理に関する指針」に基づいて作成された「都立小児総合医療センターにおける利益相反管理手順書」の違反である | 上記申告漏れは、「利益相反に関するNIH規則」の違反である ※NIH=国立衛生研究所 |
ストラテラの臨床試験に関わるなどし、大人のADHDに関する普及啓発の第一人者として製薬会社主催のセミナー、シンポジウムに積極的に登壇し、ADHD治療薬の売上急増に貢献している。国連の勧告に反して製薬会社から多額の金銭を受け取っている日本ADHD学会の理事長でもある。 | 2000~2002年に少なくとも4回来日して日本の中心的な児童精神科医と共に講演し、ストラテラを「従来より副作用が少なく、生活の質の向上が見込まれる」などと説明するなど、ADHDに対する薬物療法を積極的に紹介した。日本ではその頃にストラテラの臨床試験が本格的に開始された。 |
発達障害者支援法成立の立役者。安易なチェックリスト判定につながる75項目のチェックリストを作成し、全国調査をした。そこから導かれた発達障害が6%(6.5%)という数字は何らの科学的・疫学的根拠もなかったが、それが法整備の根拠とされた。今でもその数字は独り歩きし、過剰診断の風潮を作り出している。市川氏が第一人者である成人のADHDという概念については、専門家からも過剰診断や病気喧伝として批判の声が出ている。 | 小児双極性障害のガイドライン作成や普及啓発事業に積極的に関わった。その結果、未就学時までもが抗精神病薬を安易に投薬される風潮が広がり、国際的な非難を浴びた。DSM(アメリカ精神医学会による精神障害の診断・統計マニュアル)第四版編纂責任者であるアレン・フランセス博士は、小児双極性障害の診断が40倍になったことを指摘し「育児上の問題、子どもの発達の問題すべてが双極性障害の証拠として解釈されてしまいました」「これはまさに不祥事だ」と痛烈に批判している。 |